海軍工廠部のDr.スランプです。第二回目の技術レポートは、水中からの映像、音声電波送信の実験についての考察です。


 当HPのRCサブ集中講座にもありますように「プロポの電波は、水中まで届くのだろうか?」 これはRCサブに対する最も素朴な疑問ではないでしょうか?
皆様もご存知のように淡水中なら、現在ラジコンに使われている27MHz(波長11m)40MHz(波長7.5m)の電波は淡水中なら水深3メートルくらいまで届く事を私達は経験上知っています。実際はRCサブを操縦するのに必要かつ十分な深度までと言うのが正確な表現かもしれません。ただし、これは淡水に限ったものであり、電気が通る海水だと含まれるイオンのために電波が遮られ、制御は上手くいきません。携帯電話(PHS 1.3GHz波長23cm)を密閉弁当箱に入れて水中に沈めたら、5ミリ沈めるだけで圏外になってしまいました。薄い水の膜でも電波は沢山吸収されてしまいます。
J.D.ジャクソンの『電磁気学()(吉岡書店)という本に、水の吸収係数のグラフがあります。吸収係数をα[cm-1]とすると、水中をx[cm]進んだときの光(電磁波)の強度はex分の1に落ちます。つまり、「吸収係数の 逆数の距離」で強度はe分の1(37)に、「吸収係数の逆数の5倍の距離」で 約150分の1に、10倍の距離で約2万分の1になります。
このグラフを見ると、人間の目には透明に見える水ですが、波長(振動数)によって吸収係数は劇的に変化します。
「吸収係数の逆数(強度が1/(37)になる距離)」でいうと、一番透過率の高いところはだいたい可視光の緑色付近で吸収係数の逆数が約50m、ここから離れるにつれ急激に透過しにくくなりますが、人間の可視域の紫色の端で約10m、 赤い方の端で約1mになっています。
可視域から離れてもどんどん透過しにくくなり、紫外側で波長が200nm0.2nmくらいの範囲では吸収係数の逆数が1mm以下に、赤外側でも波長が1.3μm2cmくらいの範囲では吸収係数の逆数が1mm以下になってます(つまり5mm先での強 度は150分の1以下)
つまり、水は劇的に可視光だけを透過しているのです。
電波領域では、1.3GHz(波長23cm)で吸収係数の逆数は2cmくらいです。波長1m 以上になるとこの本の元になった資料によってデータが違うようですが、 27MHz(波長11m)40MHz(波長7.5m)くらいで、吸収係数の逆数は2m100m程度です。実際の潜水艦の通信方法である電波は水中、特に海水中では電波がすぐに減衰してしまいます。
現在実用になっている水中での(無線)通信は、水中の音波を使用した方式と低い周 波数の電磁波を使用した二つの方式しかありません。航空機から海面にレーザーを照 射して潜航中の潜水艦と通信する試みなどもありますが、この場合でもやっぱり水中を伝わるのは音波です。電磁波が水中を伝わるためには、その周波数はできるだけ低い方がよいのですが、周波数が低いと電送可能な情報は逆に少なくなってしまいます。
電磁波が水中を伝わる為にはその周波数は出来るだけ低い方がいい事はジャクソンの『電磁気学』にも、吸収係数α[cm-1]8.4×10-5×√ν[Hz]とあります。つまり、電波の伝わる距離は周波数のルートに反比例していることになります。
また潜水艦への通信は一方通行でしかなく、送信するためには地上に巨大なアンテナをたてるか、E-6Bマーキュリという特殊な航空機から長いアンテナを出して送信しなければなりません。アメリカ海軍ではELF/VLF/LFを潜水艦との通信に使っています。
「ELF(Extra Low Frequency)通信」は波長1000km〜1万kmの極超長波(ELF300Hz
3KHz)で水深100mまで到達します。ELF送信施設(周波数 76Hz )はミシガン州リパブリク(アンテナ長45km)とウィスコンシン州クラム・レイク(アンテナ長90km)にあります。非常に長い曳航式アンテナを伸ばすことによって、大深度でも受信が可能ですが、伝送速度が非常に遅いので、通常は短縮コード表により通信が行われます。
「VLF(Very Low Frequency)通信」は、波長10100kmの超長波(VLF、330KHz)で水深10mまで到達し海面下数mまでブイ・アンテナ又は曳航式フローティング・アンテナを伸ばして通信を行う。VLF送信施設は全世界に6カ所あります。
LF送信施設 なら日本にも泡瀬通信施設があり、一時期ニュースにもよく取る上げられました「象の檻」と称されているもので、このような地上の巨大なアンテナは、平和時はともかく有事の際の奇襲には脆弱ですので、戦略潜水艦へは航空機からの通信が常時確保されているものと思われます。
ELF/VLF/LFの電磁波を水中通信に使用するのは軍用の潜水艦だけです。 また、軍用の潜水艦の最大安全潜航深度はトップシークレットになっていますが、500mも潜ることのできる潜水艦はほとんど運用されていないと考えます。 雑誌などには、まことしやかに、いろいろな数字が記載されておりますが、 例えば米国海軍のロサンゼルス級の潜水艦の最大安全潜航深度については、 せいぜ750フィート(250メートル)程度とされていることもあります。
軍用の潜水艦では、隠れてさえいられればあまり深く潜る必要はありません。実際の運用上、ある程度浅い深度なら電磁波でも通信可能です。上記の事をご理解の上、潜水艦艦映画「クリムゾンタイド」や「レッドオクトーバーを追え」を観るとよく理解できます。
また水中通信のもう一つの方式、水中の音を利用しての通信も、周波数が低いほど遠くに届きますが、逆に送ることができる情報量が限られてしまいます。実際に「しんかい6500」がどのような搬送波や変調方式をとっているのか知りませんが、市販されているダイバー向けの水中トランシーバーは搬送周波数32.768kHzの超音波のSSBだそうです。
水中音響を使用しての画像通信や水中音響モデムによるデジタル通信もたくさん試みられています。日本のJAMSTECも頑張っていますが、ロシアなどもまだまだ進んでいます。遅くても良ければなんと3,000 kmも届くそうです。
有人潜水調査船との水中通信の場合は、到達距離よりも到達時間の方が、 実際に運用する上で、もっともっと重要な問題となっています。 水中の音速が1,500m/s6,500mを往復しなければなりませんので、 かなりまどろっこしい会話になっているようです。
「しんかい6500」のデータ伝送方式については、解りませんが、「うらしま」用のデータ伝送方式(周波数、伝送速度、変調方式)は、コマンド(上下)は、12kHz2.4kbps2FSK画像(下上)データは、20kHz32kbps16QAM(もしくは8DPSK)だそです。「しんかい6500」と母船とのやりとりは、やはり画像のほうが大変のようです。
私たちが理解できるのは、水中の音響を利用した水中通信については、搬送波の基本周波数によって、少しばかり、変調方式を工夫したところで、遠くに通信しようとすれば、おそくなってしまい、通信のデータ容量を上げようとすると、高い周波数のために伝達距離が犠牲になりそうです。
 結論としましてはこれらの事から波長が長い方が水中からの映像、音声の送信に優位である事が解ります。
以前サブレガッタの際アクラUサンとのお話の中2.4GHz1.2GHzなどのマイクロ波では全く電波が水中から送信できず現在500MHzUHFで実験中との事でした。
 ラジコン潜水艦に於いても,プールの側壁の素材(FRP,鉄、コンクリート)や水質(含有塩素の量等)また,屋外か屋内(天井の構造物電波の反射)など色々な要素で変化します。この様な事から野池等でRCサブを運用するのはかなりのリスクを抱え込むことになります。
話が横道にそれますが、この為、メインのバラストタンク制御用チャンネルにはRCサブ用のフェールセーフ・ユニットがかませてあり、電波が数秒間(任意で設定できるタイプもある)届かなくなるとフェルセーフ自動的にメインタンクがブローして浮上動作に移るといったエマージェンシー機能が持たされています。
もう少し詳しく説明すると下の写真のようなユニットを受信機とメインタンクのガスをブローさせる為のサーボとの間に接続しておきます。すると電波が数秒間途絶えるとサーボが自動的にガスをブローさせ艦を浮上させることにより大切な艦をロストしません。
一般に販売されているフェールセーフ・ユニットでは電波が途絶えると直ぐに作動してしまい直ぐにガス欠を起します。この様な事がらから私達は水中では送信機の電波は断続的に受信されていて、潜水艦の運動そのものが、飛行機ほど高速で動いていない事からノーコン状態になっていても気づいていないで操縦していることが考えられます。 
 Thor DesignFS 

Model Control Devces製FS
上記RCサブ用のフエルセーフユニットの数々
これらの商品は国産品はなく海外から上記の物を取り寄せて試してみましたが、PCM対応の物は無く全て、AM,FM使用であった事(私がフタバFF9ユーザーでPCMRCサブを運用している事)また回収可能なプールか人工河川で運用している事などから現在は搭載していません。
お話を本題に戻しますが、私が今まで実験した映像発信は10100mW程度の出力のUHF送信機でありましたが、これらの出力ではアンテナを水面に出さなければ送信出ませんでした。マイクロ波送信機でも曳航フローティングアンテナを水上に露出させれば送信可能でしょう。両者とも水中からの送信は不可能でした。
今回使用使用したものは出力1Kwの470MHz(13Ch)UHF高出力送信機、及びホイップアンテナ、カメラはCMOS,コンデンサーマイクを使用し、アンテナ部水深約10cmよりアンテナを水面に出す事なく送信できました事を報告します。かなり大掛かりな装置になりますので、現在のところ大型艦にしか搭載出来ないサイズです。なおこれらの装置は電波法に触れますので搭載に躊躇している所です。
また受信機とのかねあいで狭い模型のメカ室中で高出力の送信機と受信機が隣接する事はノーコンのトラブルのリスクも高いです。私達のRCサブでは受信機のアンテナを船体に長いアンテナを立てて水面上に出すといった必要は有りませんが、アンテナ線は必ずメカ室の外に出し、船体内に這わさなければならないでしょう。またこれに伴ってアンテナ線の途中でオーリングなどを用いてメカ室内外の防水を行わなければなりません。さらに、水没することになるアンテナ線の先端部も、やはり瞬着やシリコン充填剤(バスコーク等)で防水しておくべきでしょう。